最高裁判所第三小法廷 昭和24年(新れ)536号 判決 1950年4月25日
主文
本件上告を棄却する。
当審における訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
国選弁護人関口保二の上告趣意について。
論旨は、「第一審において弁護人の関与なくして行われた訴訟資料に基いて審理された控訴審の判決」は憲法第三一条第三七条第二項に違反するというのであるが、原審の訴訟手続自体は弁護人立会の上適法に行われているのであるから、論旨は、結局弁護人を附せず審理した訴訟手続に基く第一審簡易裁判所の判決を維持した原判決は右憲法の各条項に違背するとの趣旨と解せられる。
ところで、憲法第三一条、第三七条第三項はすべての被告事件を必要弁護事件としなければならないという趣旨ではなく、如何なる事件を必要弁護事件となすべきものかは専ら刑訴法に依り決すべきことである(昭和二四年(れ)第六〇四号同二五年二月一日大法廷判決)。然るに本件は窃盗被告事件であって、簡易裁判所においてその第一審がなされたものである。そうして刑訴施行法第五条は刑訴法施行後に発生した事件にも適用があるものと解すべきものであるから、被告人が第一審公判前あらかじめ書面を以って弁護人を必要としない旨の申出のあった本件において、同裁判所が弁護人なくして開廷審理したことに何等の違法なく、従って、この第一審判決を維持した原判決には違法はないのである。かように法令の誤解に基きこれを基礎として憲法違反を主張することは、法律にいう違憲の主張にあたらないこと、当裁判所の判例(昭和二三年(れ)第九三〇号同二四年六月二九日大法廷判決)の示す通りである。それ故論旨は適法な上告理由とならないものである。
被告人の上告趣意は明らかに刑訴第四〇五条所定の上告理由に該当しないものである。
尚本件記録を調べてみても同第四一一条に該当すべき事由はない。
よって同第四〇八条第一八一条を適用して主文のとおり判決する。
この判決は裁判官全員一致の意見によるものである。
(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)